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執筆者の写真t.yagihashi

本物の味を食わせる店主

釜石市にて。

カウンター席で一人刺身を食っていた。

会計を済ませた後、店主が横に来て酒を飲みながら話しをした。

作務衣を着た店主の掠れ声は聞き取りずらいが、渋さがあってなんかいい。

僕と店主は初めまして。そんな二人のやりとり。



店主「魚はどうだった?」

俺「まじで美味いです。醤油つけずにどの刺身も食えます。」

店主「チョイチョイ(カウンター内の奥さんに手招き)

   ちょっとこの人にアナゴ出してやって」

奥さん「...」


サッとアナゴをふた切れ出してくれる


俺「え、まじすか?」

店主「うちは53年店やってて、冷凍物なんか出さない。

   本物の地元の味を客に出さなきゃいけねえ。」

俺「甘くて美味いです。」

店主「煮こごりがいいんだよ。何十回も失敗した。

   こういう本当に美味いもん作らないと客は来てくれないんだ」

俺「いや、まじで美味いっす。」

店主「チョイチョイ(カウンター内の奥さんに手招き)

   次はいくら出してあげて。」


奥さん「...」


サッといくらを小鉢に入れて出してくれる。


俺「え、まじっすか?そんなもらっちゃっていいのかなぁ。

 美味い。濃厚で美味いです。」

店主「そうだろ?濃厚なんだ。A級のいくらだぞ。

   等級がA~Cまであって、Cはプチプチと音がなる。

   でも、養殖じゃない本当に美味いものは柔らかいけど

   濃厚さが全く違くて美味いんだ。」

俺「うめえ。」

店主「そうだろ。美味いだろ。本物は美味いんだ。

店主「チョイチョイ(カウンター内の奥さんに手招き)

   純米大吟醸出してやれ。」


奥さん「...」


今度はおちょこと一緒に日本酒を出してくれる。


俺「(俺が頼んだ酒の2倍くらいの値段じゃんか....)

  そんないいものもらっちゃっていいんですか?」

店主「せっかく友達になったんだから楽しんでけ」

俺「あざっす。いただきます。」


・・・・・


俺「どうもご馳走様でした。お世話になりました。最高でした。」

店主「おう。また来いよ。」




「え、そんな出すの?」と言いたげな表情で

しぶしぶと店主の言ったものを出してくれる奥さんの

表情がとても印象的だった。

俺だって同じ気持ちだ。奥さん、わかるよ。


でも、そんな粋な店主が客を惹きつけるのかもしれない。

また行きます。





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